大判例

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東京地方裁判所 昭和38年(行)26号 判決

東京都足立区本木町四丁目四、九五七番地

原告

佐々木武雄

東京都足立区千住旭町五二番地

被告

足立税務署長

山本芳雄

東京都千代田区大手町一丁目七番地

被告

東京国税局長

武樋寅三郎

右被告両名指定代理人検事

片山邦宏

法務事務官 中田一男

大蔵事務官 山本栄吉

岩本親志

川本照典

右当事者間の昭和三八年(行)第二六号所得税課税無効並びに譲渡課税無効確認等請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件訴をいずれも却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

原告の求める裁判とその主張は、別紙添付訴状及び昭和三八年五月二九日付準備書面記載のとおりであり、被告等の求める裁判とその理由は、別紙添付答弁書記載のとおりである。証拠として、原告は甲第一ないし第三号証、第四号証の一、二、同第五ないし第十二号証を提出し、乙第一号証の成立を認め、被告は乙第一号証を提出し、甲第一号証中の図面の成立は不知、その余の部分の成立は認める。同第四号証の二、同第一〇ないし第十二号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は部分の認めると述べた。

原告は、本訴において、被告足立税務署長が原告の昭和三六年度分所得税について、所得税額を金一一万五、〇〇〇円とする賦課決定をしたとしてその違法を主張しているのであるが、成立に争いのない乙第一号証によれば、原告の同年度分所得税が金一一万五、〇〇〇円に確定したのは、原告の確定申告によるのであつて、被告足立税務署長の課税処分によるものではないと認められ、右認定を覆すに足りる証拠は存しないから、原告の本訴は、訴の対象を欠く不適法な訴といわなければならない。(なお、原告主張のような事情があるからといつて、右確定申告がただちに無効となるものとは解されない。)

よつて、本訴をいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石健三 裁判官 浜秀和 裁判官 町田顕)

訴状

東京都足立区本木町四丁目四、九五七番地

原告 佐々木武雄

同 都足立区千住旭町五二番地

被告 足立税務署長

同 都千代田区大手町一丁目七番地

被告 東京国税局長

所得税課税無効並びに譲渡税課税無効確認等請求事件

訴訟物価額 金拾壱万五千円也

貼用印紙 金 千百五拾円也

請求の趣旨

被告 足立税務署長は原告に対し

昭和三六年度所得に課税した税額と不動産を譲渡した課税額合計十一万五千円を取消し

被告 東京国税局は原告に対し

同足立税務署が原告へ昭和三六年度の所得と不動産譲渡に課税した合計金十一万五千円は無効であると宣して

課税を取消させよ

訴訟費用は被告等の負担とする。

との御判決を求めます。

請求の原因

一、原告は前住所たる荒川区内に於て永らく合資会社佐々木製作所を経営し物品税も納めて営業して居つたが昭和三六年春には借金が嵩み、その借財の為め整理上に止むなく東京都荒川区尾久町弐丁目壱六六番地の自己所有の建物を附帯設備と電話付を以つて金四百万円で譲渡した。

二、そこで原告が現に居住する足立区の建物を金一五五万円で買受けたが仕事場の設備等で売つた金員と同等の資金を掛けて仕事が出来る様になつたのは同年一一月上旬であり所得申告は昭和三六年一一、一二月分を合せて昭和三七年度にいたそうと思つて居たものである。

三、ところが昨年秋に被告足立税務署資産税係高添事務官印で呼出されたから早速出頭し、左記の様な解明を為した。

(イ) 原告は前記尾久町の家屋を売つた時、譲渡税とか取得税等に関し申告いたさないと困る事が起きるので代書人に尋ねたら売る家が居宅作業所であり買う家も同様のものならば申告の必要がないと謂われたので申告をいたさなかつた。

(ロ) 所得税の申告は原告は昨年春から倒産で現在の家屋で仕事をしたのは昭和三六年一一月より始業したのだし昭和三七年度に前年二カ月を逆及して一括に申告する。

(ハ) 家屋の売買は買替に当該し、然もその職務に関連する売却当時の東京法務局北出張所前の中込不可止司法書士が必要ない由を信じて善意な一般人として疑わないのが当然だろうから税法は法としても諒承して原告の言を取上げて呉れと低頭して謝意を表したものである。

四、然るに被告方の事務官は原告の非を認めず一応昭和三六年度の所得を無申告とし不動産譲渡も無申告として税額金十一万五千円也を決定させ、不服や異議があるならその申立をせよと謂うので昭和三七年一一月二日付東京国税局に対し異議申立を為し、その旨を被告足立税務署にも具申し、その審査が二カ月以内にある筈なのに今日に置いても置き去りで再度の催告をなしたものである。

五、それなのに前記被告は原告に対する税務署長の名を以つて昭和三七年一〇月三一日付で三六年分所得税の加算税の賦課決定書を送達したり昭和三八年二月二一月付を以つて同じく昭和三六、七年度(ス)税額金十一万五千円に対し加算税二八七五〇と利子五五〇に滞納による処分費五〇と加算し計一四四、三〇〇円なりとて足立区本木町四丁目四九五七番地、家番四九五七番の五一、木造瓦葺平家建居宅兼作業所壱棟、建坪二五坪六合二勺を差押え、その通知書を送達の仕草に遭遇されて居る。

六、原告は昭和三七年一〇月一八日に前記住所に於て昭和三六年一一月一三日よりブレス加工業を営む営業開始届をなし、遅ればせながらも同年九月二八日に不動産取得申告書をは提出してあるのだし、法には情はないと云うもののマサカ倫言汗の如し、と云う事もありますまい。

七、右の様な次第で既に被告東京国税局にも書類を提出してある事だし被告足立税務署とも原告の措つた処置を宜敷御審査あつて然るべく。

依而原告は茲に本件請求の趣旨の通り御判決を仰がんが為め本訴に及ぶ次第であります。

疏明書類は被告等に提出してあるので証拠書類は被告等の答弁を相俟つて御提出します。

右提訴します。

昭和三八年三月 日

原告 佐々木武雄

東京地方裁判所 御中

準備書面

原告 佐々木武雄

被告 足立税務署長

同 東京国税局長

右当事者間の御庁昭和三八年(行)第二六号所得税課税無効並びに譲渡税課税無効確認等請求事件につき被告等の答弁書に対し左記の通り準備書面を提出します。

一、原告は前住地の荒川区尾久町二ノ一六六の併用住宅を昭和三六年四月に電話付附帯設備一切で金四百万円也で売つた事と請求原因記述の第三項(ハ)記述は間違いない。

現在譲渡税の制定が確立して居たとて一般の衆諸は不動産の譲渡と取得に関して其の年分を所轄税務署に遅滞無く申告して居る者は宅建業者の外は素人同志では皆無に等しく、原告としては登記代書人の言質を信ずる事は当然の理であり併も被告税務には印刷した甲号証の紙片を積重ねてあるが登記所等に置くとか或は適当な方法を以て掲示して居ないものだから一般人は後日悔いて泣寝入するのが通例なのである。

二、原告も言に漏れず不手際の点は認め、改めて

昭和三七年九月二八日付別紙添付する買換に基く不動産取得申告書を提出したのだが認め様といたさないで答弁書に記載した金額によつて課税されたものである。

その時は、ここで一応決定するが若し不服の場合は異議申立をするか又は行政裁判に依つて調整したらとの前提があつたので判を捺させられたものであるのに相違が無い。

三、それだから原告は同年一一月二日荒川局八四五号を被告東京国税局と同年同月七日通常便で別紙添付異議申立書を被告足立税務署へ提出したのである。

然し乍ら審査呼出の返信料と往復ハガキでの返事すら無いのだから喧しく謂う御役所仕事と謂うのも甚しいものである。

だが遅れても御互が腹立つ事もないのだからその当時に逆及して審査と原告主張も組合せて之が審査いたされたい。

四、それに原告は審査に当つては原告の妹が荒川区内で建物を金八百万円で売却し無申告にも拘らず譲渡税が金六万円である類例からすれば原告の場合は多くとも三万円位に調整した税額になる事を臆測して昭和三八年二月四日六千五百二十円也を納付したが被告足立税務署は同年同月二一日買換した建物納税滞納金を徴収する為差押えた。別紙添付甲号証

五、そこで原告は被告足立税務署に対し、

昭和三六年一一月より翌三七年の所得確定申告書は前記被告へ営業開始届を為した通り遅滞無く申告の上、税額金弐千四拾円也を納付済のものである。

そうだとすれば原告は如何に善意であるかを被告等は須らく善処すべきは至当な事であり、原告盛業の折は製品の物品税等も遺漏無納付し、真に正直一点張りで通した経緯もある程だから被告東京国税局はそれ相当に被告足立税務署を督励して本件は飽迄和解を以て成立さすべき性質のものである。

六、順位第一被告は答弁書記述によると原告は任意申告したので本訴請求は不適法であると謂うが原告は捺印さした高添事務官と原告及び原告付添人訴外亀谷祥邦氏を人証に懸けても決して偽りでは無いものである。

資産税係とは全部ではあるまいが原告の場合は最初から不愉快を極め心頭滅却した体たらく、

七、申告とは正確な計算を計数の上に任意申告をするのが立前であるとする事はアメリカ人の納税者の如きものを良とす、それとは別だが為政者等は正直三分で嘘三分アトの四分はズルサを以てしなければ上等な政治が行えないと云う様な施政と謂われるから正当の申告もされない測源が生れるのである本件の課税もズルサに引懸つた向がある事と頷けるものであるから原告の妹が同じ年に売つた建物につき課した取得税の様に課税すべきである事を和解御勧告して貰うべきが至当であることを本準備書面とする次第であります。

証拠書類

甲第一号証 異議申立書写 壱通

甲第二号証 買換に基く不動産取得申告書写 壱通

甲第三号証 再評価税納付書及び領収証書写 壱通

甲第四号証の(一) 所得確定申告に基く納税領収書写 壱通

の(二) 確定申告書計算抜萃 壱通

甲第五号証 昭和三七年分所得税加算税の賦課決定書 壱通

甲第六号証 営業開業届 壱通

甲第七号差 差押通知書 壱通

甲第八号証 税務署資産税係溜所に置く印刷物 壱通

甲第九号証 登記簿謄本並び売買契約書写 壱通

昭和三八年五月二九日

右原告 佐々木武雄

東京地方裁判所民事第三部 御中

○昭和三八年(行)第二六号

原告 佐々木武雄

被告 足立税務署長

外一名

昭和三八年四月二四日

被告指定代理人 片山邦宏

山本栄吉

岩本親志

川元昭典

東京地方裁判所民事第三部 御中

答弁書

本案前の答弁

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との裁判を求める。

理由

原告は、被告等が原告に対してなした昭和三六年分の所得税金十一万五千円の課税処分の取消と無効確認を求めておられる。しかしながら、後記のとおり被告は何等そのような課税処分を行つていないので、本訴は訴の対象を欠く不適法な訴として却下を免れない。

なお、本訴提起までの経緯は次のとおりである。

被告足立税務署長は、原告が昭和三六年度において荒川区に所有していた家屋を売却したことによる譲渡所得及び営業所得があり当然所得税の確定申告をすべきであるのに、これをしないので、昭和三七年九月及び一〇月にそれぞれ原告の出頭を求め、事情を聴取し、かつ確定申告の提出方を勧告した。その結果原告は同年一〇月一九日に左記のような内容の確定申告書を提出した。

総所得金額 九四三、六八一円

営業所得 六〇、〇〇〇円

譲渡所得 八八三、六八一円

課税所得金額 七一三、六〇〇円

所得税額 一一五、〇〇〇円

しかして、右確定申告は提出期限後であるので、被告足立税務署長は同年一〇月三一日無申告加算税金二八、七五〇円(所得税額に百分の二五を乗じた額)の課税を決定し(所得税法第五六条第三項)、原告にその旨通知した。

ところが、原告は右申告所得税額及び無申告加算税額を納付しないので、被告足立税務署長は訴状請求原因五項記載のように差押処分を行つた。

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